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elementscapes
        最新アルバム「elementscapes」2015/4/26 release

『VEIL』解説

『DIGNITY』以来の各曲解説記事を書いてみようと思います。『MOVE』ではジャケットを6pに増やして解説を書きましたが、今回の『VEIL』はどうしてもパッケージとしては多くを語らない存在にしたかったため、ジャケット内部はお手に取っていただいた方には分かるゴニョゴニョな状態になっております。そこで完結すれば帯に書かれた通り「深遠なる音楽世界」として胸を張れるのですが、やはりいざ何も載せないことにしたら曲について書きたい気持ちも出てくるもので、ブログにこっそりと載せることにしました。なかなか説明しきれないところもあり果たして読んでいただけるものなのか若干疑問ですが、「深遠なる音楽世界」とは別の制作者サイドの話として気軽に読んでいただければと思います。

Download

Sailing Song

Dawnさんのボーカルによる序曲。女声四部による曲で、一番上のメロディーをDawnさんに取っていただきました。ア・カペラから優しい表情のピアノにバトンタッチされて、あまり多くを語らずに曲を閉じます。
元々はゲームサウンドクリエーターのオーディションに参加していた時期に書いた曲の一つで、「聞かせる」タイプの曲であることを強調するために今回は生の歌声を使いました。曲としては小さいですが自分にとっては新しい領域に踏み出した意識があります。当初は癒しを与えるような曲をイメージしていたのですが実際に聴いた方によると不安げな気持ちも煽られる側面もあるようで、今となっては自分でも多少そういう印象の曲になってきました。おそらくは幻想的な歌声と「海」のイメージが相まってそのような効果が生まれているのだと思います。地に足が付いていない状態で、これから先のことが見えない船出ですから、期待と不安が五分といったところでしょうか。ファンタジーな世界を想像していただいても、現実世界に照らし合わせていただいても聴けると思います。

Chamber Rock

幻想的な序曲とは対照的に、ストイックなピアノが炸裂します。このアルバムの取り留めのなさを象徴している曲の並びではないでしょうか。曲調としては前作に入ってもおかしくないビート感をピアノ・ソロで表現することで、シンプルさと奥深さが同時に生まれているかと思います。中盤のワルツから元のテンポへ戻る流れがポイントです。

Unreality

「非現実」のタイトルが指し示す通り、再び幻想的な世界観。「Sailing Song」で触れた先が見えない不安のようなものを、もっとストレートに表現した曲と言えるかもしれません。全体としては明るめのハーモニーでまとまっていますが、やはりどこか影を潜めたサウンドになっているのを感じていただけるのではないでしょうか。
これは元々映画のために書いた曲で、後に現れる「Shade」「Awakening」と同時に作った曲です。全体を通して非現実的かつ非常に難解な表現の映画で、サウンド面でも抽象的なものを求められました。冬の札幌で作った曲達は今まで自分が作ったことのない色を帯びていました。結果的に使われなかった音楽をお披露目する場として、不思議な色合いの今作はまさに打って付けだったわけです。前作のようなポップなサウンドとは別のものとして、じっくり聴いていただければいいな、という贅沢な思いを秘めています。

Veil

アルバム・タイトルの「ヴェール」は、取り留めのないサウンドが並び出したときから自然に浮かんだフレーズでした。包み隠されて見えないもの。その奥に見えるものは何か…。抽象的なコンセプトを縦横無尽に活かして、このアルバムでしか出来ない曲をここぞとばかりに並べていき、その総仕上げとして最後に作った曲です。
当初はこんなに速い曲ではなかったのですが、アレンジの方向性を決める段階で一気にテンポが上がってしまいました。結果的に非常に勇壮な曲になり、曲の流れとしても抑揚が付いたので良かったと思うのですが、タイトルから柔らかなイメージを持っていただいていた方には多少なりともギャップを感じていただく結果になったようです。

Woodfall

土着的な響きのするピアノ・ソロ。『COMFORT』以来発信していなかったタイプの曲ですが、何を隠そう『COMFORT』と同時期に既に原型を書いていた曲です。「Waterfall」も同時期に作っていて、あちらはアレンジを加えたのでこちらはシンプルにピアノのみで行くことにしました。

Secret Sacred

これは非常に思い入れのある曲で、言ってしまえば「悲しい思いをしたときに自然に出来たタイプの曲」です。正確に言えば、元々はRPGのフィールド曲として書き始めていたのに、曲中の盛り上がる部分でその心情が反映されて曲調が変わってしまったということです。BGMとしては随分盛り上がるのはそういうわけなのですが、結果的にゲームと合わせてみるとそう違和感も無く、曲に変化も付いたのでかえって良かったのかもしれません。
ちなみに、悲しい心情が明るいハーモニーで表現されていることに同意をいただける方はコメント等いただけると嬉しいです(笑)。

Shade

恨みとか憎しみみたいな感情は基本的に曲には出さないので、そういう曲を作ろうとしてもなかなか出来ないのですが…この曲の場合は映画の猟奇的なシーンのために作ったという下地があり、せっかくなのでそこに上乗せする形で普段出さない感情をピアノに乗せてみることにしました。文字通り人間の心情の「カゲ」の部分がありありと描写されたというか、ちょっと悪寒のするくらいのサウンドに仕上がったと思います。言ってしまえば普段は聞き飛ばしてしまっても良いくらいの位置づけの曲ですが、悪い感情に支配されそうなときに聴いてみると自分をニュートラルなポジションに戻せたりするかもしれません。

The Ice Palace

これは完全にファンタジーな世界観の曲。同じような音型が繰り返されるなかでふっとリズムが変わるところがあるのですが、その節々で感傷的なメロディーが顔を覗かせます。あまり主張しない曲ですが、言いようのない力を秘めていると思っています。
ライブで披露したときにお客さんが「寒かった」と言ってくださったので、情景描写的な意味では成功したと言えるかもしれません。

Awakening

この曲はヴァリエーションを作って二つのシーンに当てていました。一つは黄昏の中のシーンで、自身が非現実に飲み込まれていくようなイメージ。もう一つは霧の中のシーンで、非現実から目覚めていくようなイメージ。今作では後者の意味合いを持たせて、終結部への橋渡しとして曲を配しました。

Waterfall

「滝」のような言葉になっていますが、どちらかというと「涙」の意味です。この種の曲を明るいハーモニーでやるのは「Secret Sacred」と同じです。
元々ピアノ・ソロで書いた曲で、その響きも好きだったのですが、表現のし易さの観点からアレンジを加えることにしました。回りくどい言い方をしましたがピアノだけでは弾くのが非常に無理のある曲になっていたためです。またせっかくアレンジを加えるので、「水」を感じることの出来るような、やわらかい電子音を使ってみました。

Invincible

インビンシブルはゲームの世界で頻繁に現れる言葉ですが、どちらかというとInvincible Armadaの「不沈」の意味を意識して付けたタイトルです。「Sailing Song」で煽られた期待と不安が、この曲で表現される決して沈まない強い決意へと結びつくわけです。Cメロでは「Secret Sacred」の後半と同じフレーズが現れ、悲しい感情を回想した上で最後の盛り上がりへとつながっていきます。
推進力を持った曲として前作の「Aim Toward」に近い位置づけにある曲ですが、あのときシンフォニック寄りだったアレンジが今回はバンド・サウンド風になっていることが一つの変化と言えるでしょう。

Remains

アルバムの終曲では序曲とフレーズを共有していますが、ソフト・ペダルが外され芯の通った煌びやかな音を意識して演奏しています。
「残されたもの」というタイトルを与えていますが、言ってしまえば自分がこの世を去るときに何かを成し遂げたという証を残したいという意味です。成し遂げる前に五里霧中だった期待と不安は、Invincibleな決意の持続によって一つの成果として結実します。年月を経たとき、その時代を生きる人にとっては良く分からないもの、ヴェールに包まれて見えないものに過ぎないのかもしれませんが、その包みを解くことが出来た人にとっては、それは確固たる偉業として燦然と輝き、決して朽ちることはないのが分かるはずです。