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daybreak
New Album "daybreak" 2017/4/30 release


『DIGNITY』解説

恒例の解説です。じっくり時間を取って文面を練りたいんですがそうも行かず…でもアルバム熱が冷めないうちに書いてしまいます。これくらいの方がコンパクトで読みやすい解説になるかもしれませんね。例によって一日一曲くらいのペースで行きたいと思います。

はじめに

コンセプトは「仮想RPGサウンドトラック」です。RPGの王道シーン、すなわちバトルやダンジョン、フィールドといったシーンを想定して曲を作りました。ジャンルをはっきり分けてオーケストラとピアノを打ち出した『LIBERTY』とピアノを中心にまとまりの良さを目指した『COMFORT』の間を取って、バラエティに富みつつもバランスの良い曲集を意識しました。結果的にはピアノソロ2曲を含む13曲が並び、クラシックからロック、民族音楽のエッセンスまで幅広く楽しめるアルバムになったと思います。

各楽曲について

01 この誇りに賭けて

過去の曲を集めた『Betabeta Piece of Butter』の収録曲で、今回のアルバムでは一番古い曲です。今作のアルバムタイトルを決めたとき、真っ先にこの曲が浮かびました。元々気に入っている曲で、オーケストラ音源を買ったときに最初にこの曲で使い方を試した経緯があります(このバージョンは先行公開版としてMusicページに載せています)。結果的に終曲の「DIGNITY」と合わせてアルバムの核のような曲になりました。
オーケストラとピアノを合わせたピアノ・コンチェルト風の勇ましげな楽曲で、7拍子の変則的なリズムが特徴的です。『Betabeta〜』のバージョンでは後半ピアノの伴奏に乗った静かな曲想に転換するのですが、先行公開版では勇ましい部分だけでループさせたシンプルな構成になっています。今回のアルバムでは序曲ということで前者の長いバージョンを採用しました。特に最後トランペット二本だけになるところが独特の郷愁があって気に入っています。この部分は元々ホルン二本だったのですが、今回は不思議とトランペットが使いたくなったので変えました。どことなく「天空の城ラピュタ」でパズーが吹くトランペットのシーンに通じるところを感じます。

02 雪降る峡谷

雪降る峡谷ダンジョンを想定した曲。一般的に雪のステージというのは物語後半に登場することが多い気がしますが、このアルバムでは二曲目に収まりました。昔から雪をテーマに曲を作るとハズレがないんですが、この曲も類に違わず上手く出来て気に入っています。北国出身の意地みたいなものでしょうか(笑)。静かに降り始めて、しんしんと大雪になって、晴れ間が差して…といった一連の白い情景は、故郷を離れた今でも容易に呼び起こすことができます。
この曲を書いたときは大学でサラウンドの楽曲を作るためにシンセサイザー音色を模索した後だったので、木琴とストリングスを途中で電子楽器に置き換えるなど独特の編成になっています。最後の静かな(晴れ間が差す)ところも普段なら弦や木管で演奏しそうなところを、ややチープなオルガン風の音(実はシンセベースの高音)で弾くなど…昔はよく使っていた音なんですが、オーケストラ音源と合わせるとまた一味違った魅力があるなと思いました。

03 酒場にて

RPGには御馴染みの酒場です。アイリッシュ・パブのような雰囲気をイメージしてケルティックな旋律を使っていますが、いろいろな国の楽器を使ってみたり、ベース・ドラムスやシンセサイザーを入れてみたり…気が付けば随分と多国籍というか無国籍な曲になりました。

この曲には元々ヴァイオリンとチェロのために書いた原曲がありました。ピアノやキーボード以外の楽器で楽譜を起こした最初の曲だったと思います。これを作ったときは自分の中で一つ大きな壁を乗り越えたような感じでしたね。スラー等がちゃんと書き込まれていないのは…余裕が無かったからです(笑)。

04 メカニカルベース

西洋的なRPGでもどこか異質で無機的な場所が一つはある…みたいな曲です。タイトルからしていかにも住み分けた感じですね。他にメトロプラントとかサイバーファクトリーとかいう案もあった気がしますが(笑)直感で最初に浮かんだこれに決めました。今回のジャケット写真は建物の一部に鉄骨が組まれている部分がありますが、これはアルバムでいうこの曲や「訣別」のような異質な世界観の一端を表しています。
曲としては極めてシンプルで、テクノ風のリズムに乗せて木質(加工しているので随分違って聞こえますが)のシンセがメロディーを奏でます。後半、一旦音が消えて静かにボイス・パッドが盛り上がってくるところで唯一電子楽器以外を意図した弦の音が入ってくるのがポイントでしょうか。

05 CALM -Day-

ピアノ・ソロ2曲を街の曲として入れました。『COMFORT』に通じる世界観ですが、今作では環境音が入ってサウンドスケープ寄りの音作りになっているのが特徴です。この曲は昼間バージョンで、環境音は波の音。海辺の町、地中海風の白い建物といったイメージがあります。
今回アルバム帯裏の楽譜はこの曲の出だしにしました。seccoは「乾いた」の意味。こういった情景を表すにもついスタッカートを使って硬質な音作りをしてしまう辺りが自分らしいと思います。街にしては淡々とした曲ですが、BGMとして考えればアリではないでしょうか。途中少しだけ叙情的な旋律が現れますが、それを硬質な部分で挟んだシンプルな構成になっています。短めの曲なので2ループ収録しました。

06 滝の洞窟

ここからの三曲はダンジョン〜ピンチ〜ボス戦闘という一連の流れになっています。「雪降る峡谷」がスローな曲だったので、こちらはもう少しテンションの高いダンジョンBGMを意識しました。水の落ちる情景から冒頭のリフが即興で出てきたので、ピアノで録音してそれを元に展開させていきました。楽譜にしてみたら13拍子だったのですがプログレッシブで面白いのでそのまま採用しました(ときどき12拍子に変わる部分もあります)。
この曲を作ったときは映画音楽のプロダクションで弦楽四重奏の曲を多く書いていたので、ピアノのリフをヴァイオリン2・ヴィオラのピチカートに割り振り、チェロでメロディーを奏でることにしました。その後でベースラインとしてコントラバスを追加し、オーケストラ・パーカッションやフレットレス・ベースを重ねています。「雪降る峡谷」よりはアコースティックな音作りが特徴的ですね。ドラムスはややチープな音にコーラス・エフェクトをきつめにかけた独特のサウンド。サビのクラリネットは最初のループでは表れず、二回目で初めて登場するというちょっと変わった構成になっています。

07 迫る危機

文字通りピンチシーンです。「鬼気迫る」とのダブルミーニングにもなっています…いやすみません今思いつきました(笑)。いわゆる時間制限イベントなどよりはムービーシーンのイメージが強いですね。効果音がバリバリ鳴っている中で流れるようなイメージなので頭の中で補完しながら聴いていただくと雰囲気が一層増すかもしれません。盛り上がりが最高潮に達したところで次のボス戦闘曲にそのままつながります。
編成は純然たるオーケストラ、いかにもムービーシーンといった感じですね。「滝の洞窟」の流れを汲んでクラリネットがメロディーの多くを担当します。珍しく木管金管・弦と揃い踏みで分厚く重ねているのですが、思いのほかミックスが上手く行ったので大分迫力が出てくれたかなと思います。管の駆け上がり・下がりやフラッターなど、今まであまり使わなかったアーティキュレーションも良い効果を上げてくれました。

08 乾坤一擲

ボス戦闘曲です。ボスの曲は高揚感を煽るタイプ(FF6・7・8あたり)と恐怖感を煽るタイプ(FF5・9・10やドラクエ)があると思うのですが、これは後者を意識して作りました。思えばシリーズの中で差があるFFは面白いですね。最初にボスと遭遇するシーンの演出に合わせた曲が他のボスでも使われているという流れではないかと推測しています。
曲はと言うと分かりやすく低音ピアノが好きな人の曲になりました(笑)。途中の高音が炸裂するところも好きなんですけど(左手で最初の一音、右手で残りの三音というように分けることで比較的容易に弾くことができます)。プログレッシブ・ロックを聴いていた時期だったので、楽器の使い方や変拍子などがいかにもカオスな雰囲気を醸し出しています。ちなみにmuziemyspaceではピアノをグランドピアノ生録音、オルガンをVSTハモンドに入れ替えた"another mix"を公開しているので、よかったらそちらも聴いてみてくださいね。

09 CALM -Night-

ピアノ・ソロの二つ目です。幻想的な夜の街といった雰囲気でしょうか。波音を使った-Day-と比べてウィンドチャイム系の少し非現実的な音を使っています。この後一気にシリアスな曲になだれ込むので、嵐の前の静けさといった意味合いも含んでいますね。

ふわっとした音使いのアルペジオ(左手)にメロディーを乗せて、半音違いの調を進んでいく…自分の中ではよく使う王道の進行だと思います。元々は『哲學的風景』のように、喫茶店で即興を重ねるうちに固まったフレーズから作った曲です。そういうフレーズは他にもいくつかあるので、今後も同じようにして生まれる曲があるかもしれません。

10 訣別

ラストダンジョンをイメージした曲。「メカニカルベース」と同じようにシンセサイザーやSEによる異質な世界観を持っていますが、オーケストラや民族楽器も入って非常に多様なサウンドになっています。これも古い曲で、まだオーケストラ音源を持っていないときにSC-8820をどこまで使い倒せるかとことん試した一連の曲の一つです。ミックスはやや粗いですが他と比べても遜色のない出来に仕上がっていますし、何より限界を目指した心意気みたいなものがFF6のごとくみなぎっていると思います。今聴くととても8820だけで作ったとは思えません(SEも8820の音色を加工して作っています)。
これも「CALM -Night-」のように半音違いの調を進んでいく展開で、個人的にとても気に入っています。Ebmから始まってDmに下がり、途中のやや静かになるところではFmに上がってEm、Ebmと下り元に戻るというちょっと凝った移調をするのですが…その都度感情をぐっと揺さぶられるような感覚があります。逆に一つの調の中ではあまり和音が動かないのが特徴的でしょうか。

11 命運分かつとき

いわゆるラスボスです。『LIBERTY』の「Bolero」の延長を意識して、今までで一番威圧感のある曲を書くくらいの気持ちで作りました。一曲の中でいろいろな表情があるので、「まだまだ行けそう」な感じと「やばそう」な感じの両方にリンクしてくるのではないかと思います。どこかしらで鳥肌が立っていただけたなら大体この曲は成功です(笑)。
冒頭のズンズンと迫ってくる四つの音がピアノで浮かんできて、それを元に楽譜上で打ち込みながら作りました。曲の構成は大体頭の中にあったのを手帳にメモしておいて、細かい旋律とかはその場でイメージを湧かせながら書いた感じでしょうか。編成は完全なオーケストラで特に金管をバリバリ鳴らしていますが、ところどころでピアノを使っているのがこういう曲では珍しいかもしれません。後半挿入される弦のフーガの部分は旋律を積み重ねていくことで立体感を出しているので、次々と増えていくメロディーに注意しながら聞いていただくとより一層深みが出てくると思います。

12 解放と回帰

エンディングです。ラスボスを撃破してからスタッフロールまでに挿入される間奏曲風の楽曲には隠れた名曲が多いような気がします。この曲もそういう存在になれるとよいのですが。
ムービーシーンを意識した曲で、曲そのものというよりは何かのシーンに付随する音楽としての性格が強いです。ファンファーレ的なオーケストラの序奏を経てピアノソロの解放感あふれる優しい旋律(実は「迫る危機」でもこの旋律がブレイクに使われています)に移行し、終止しないまま曲を閉じます。この終わり方がミソで、次のスタッフロールまでの余韻をたっぷりと味わってもらうための終わり方です。丁度ドラクエ6でのスタッフロール前、バーバラのシーンに近いものを感じていただきたいところです(局所的ですみません)。すなわち曲は「解放」に相応しいメジャー調ですが、ムービーの最後に待っているのは別離などの悲しいシーン…なのかもしれません。

13 DIGNITY

スタッフロール、そして終曲です。アルバム制作期に入ってからすぐに出来た思い入れのある曲で、その思い入れの深さから終曲に収めることにしました。アルバムと同じ曲名、いわゆるアルバムタイトル曲です。

ピアノの即興が早いうちに固まっていたので、曲の半分くらいまではその構成に忠実にオーケストラ・アレンジを施しました。珍しく金管のアンサンブルのみで曲を始めて、ピアノと弦を加えてぐっと盛り上げる方式です。後半はオープニング・ナンバーの「この誇りに賭けて」と同じ調(Gm)に移ってアルバムの構成を引き締めます。またピアノと金管が「この誇りに賭けて」の旋律を部分的にリフレインしていきます。トランペット二本だった「郷愁」の旋律を、こちらではホルン二本で奏しているのもポイントです。
「DIGINITY」=「尊厳」で「この誇りに賭けて」とつながるテーマの終曲ですが、序曲が誇りを守るための決意のような曲調であったのに対して、終曲はその決意と奮闘の末に生まれた尊厳を称える賛歌のようなイメージです。明るいとも暗いとも取れる中庸のコードや「この誇りに賭けて」に由来するマイナーな音も使っていますが、曲全体としては明るく突き進むようなイメージを大事にして作りました。

終わりに

ライナーノートにも書いたのですが、このアルバムで一区切り付きました。『LIBERTY』で自分の音楽性を試して、『COMFORT』でアルバムとしてのまとまりを目指して…そしてこの『DIGNITY』は多様なサウンドとアルバム・バランスを兼備した作品に仕上げることが出来ました。アルバムを作るたびに満足行く点もあれば反省点もありましたが、こうして三作を通して広がった視野を考えると制作に踏み出して良かったと今はっきりと感じています。
これまではアルバムのまとまりを強く意識していたため、全体のコンセプトを重視し、そこに向かうような形で曲を作ってきました。おかげでバランス感覚は養えましたが、一方では作曲の自由度を下げてしまっていたようにも思います。あらかじめコンセプトを決めて楽曲を作っていくより、そのときどきで自分の感じた通りの曲を仕上げていく方が自分の肌に合うことも分かってきました。もちろんそれも場合によるとは思いますが、少なくとも仕事での作曲ではそのような自由な作り方はあまり出来ないわけで…せっかくの個人アルバムなので、バランスを意識しつつもう少し自由度の高い作曲をしていきたいな、と漠然と感じています。あとは次の記事に書いている「プロ意識」。僕は完全なプロではありませんが、プロを養う現場で学んだ以上それを自分の楽曲にも消化していきたいですし、少しずつでも根本的な音のレベルを底上げしていければと思っています。この二点を胸に据えながら次に進んでいきますので、よろしければ今後ともご注目くださればと思います。今はひとたびの音楽的安息です。