liberty 2
    New Album "COMFORT 2" 2023/4/30 release


2023年総括

なんと、2023年に1個たりともエントリを投じていないではないか。こんなことは2008年にブログを開設してから初めてのことである。春に新譜アルバムを出しておきながら、記録を残すこともままならなかったのはいただけない。2024年はもう少しシャンとしなければなるまい。

ということでアウトプットだけではエントリが埋まらないので、音楽的インプットも交えながら旧年を総括していきます。

インプット

ビョーク ライブ

cornucopia, tokyo, 31st march 2023(東京ガーデンシアター)に参戦。気持ちが向いても諸々の事情で参加叶わぬこともままある我が年代においてタイミングが符合した幸運に感謝するのみである。

大学時代にミュージカル・サークルの先輩から布教されたビョーク。生の声と尊顔に見(まみ)える機会ということで、来日公演の報を聞くや迅速にチケットを押さえた。月とスッポンをあえて書き立てるなら、私はピアノを使ってビョークのようなことをしなければならないと感じている。ビョークは実に多彩なジャンルを使い分けるが、ビョークという楽器(声)により一本の芯が通っているからこそ成立している。私のピアノもそれくらい個性的でなければならないし、多くのジャンルを横断しつつその個性で世界観を貫くことを目標としている。話が逸れた。すぐに感想をシェアするつもりが、当日夜にスマートフォンでメモを書き散らすにとどまっていた。今見返すと意味の取りにくいものもあるが、九ヶ月後の感覚で脚色しながら列挙。

  • ドームと中で歌うビョーク
  • フルート・セプテット。よく動く。クラシカルでありながらクラシカルでない。動きにキレがある、一種のロックである。だがそれがとてもよい
  • 日本のクワイ
  • エンジニアの人も気づいたらトロンボーン(?)を吹いていたり、ファンシーな衣装を着て謎のダンスを踊ったりしているので、油断ならない
  • あっという間と思ったが2時間弱経っていた。休憩なし
  • 謎のクワイア・オープニング(「さくらさくら」他)
  • 終わり間際のよく見えなかったビデオ・メッセージはスウェーデンの25歳の女性?
  • ビデオ・メッセージ中にビョークは衣装替えしたが、その後二曲くらい歌ったら終わっちゃった(笑)
  • 最初の衣装はキクラゲ集合体
  • 真ん中のフルートと、円状に並べられたマイク
  • 照明がよい
  • わかった曲 
    • Show Me Forgiveness
    • Isobel
    • Hidden Place(まさかのアカペラ!クワイアによるアレンジで、オリジナルが聴きたかったけどこれはこれで意外性があってよい)
    • Pagan Poetry(構成を前後半反転しての演奏。"I love him..."のくだりからスタート。しばらくしてオリジナルのイントロが流れると今日イチの歓声
  • ドーモアリガトー,  thanks for tonight!

ピアノシュラハト III

割合急にアナウンスされた、浜渦正志楽曲のベンヤミン・ヌス演奏によるピアノ・コンサート。当日はプレイング浜渦民の顔も多く見え、緩やかな同窓会(リユニオン)の様相を呈していた。

  • 期待していた「ルフルール」や「女神の騎士」は今ひとつであったが、初演の「希望与えし戌吠の神楽」は実に見事。10日前に浜渦氏編曲完成、8日前にヌス氏演奏完成という出来立てほやほや具合が完全に上手く作用していた

  • エモーショナルな面では、アンコールでまさかのオリジナル・シンガー柏原美緒様ご登場によるピアノ+ソプラノ「天翔ける翼」。素晴らしかった。不覚にも少々落涙したが周りにもそういう方がいらっしゃったと見える。ノスタルジーと、普段は隠している胸の内のメランコリーを3分間だけ引き出されたような感覚だった

  • ピアノ演奏の観点からは、エチュード11番。ショパンの革命のような伴奏型をノンペダルを混ぜて奏されていた。こんだけ分離良く弾けるんだぜアピール…!というと口が悪いが、ペダルで聞かせるのとは違った効果はピアノ奏者ほど強く感じるはずで、分かる分かる!と謎に共感、心中喝采しながら聴いていた

  • 同曲、再現部のトリル(F-G-F-G…)をスタッカートで弾き始められたのには心中大笑い。トリルをスタッカート、そういうのもあるのか

  • 一番のショックは、ピアノシュラハト IIが9年前という浜渦氏挨拶。アラサーは皆んなアラフォーになった

深く受容した作品

ヘビロテした楽曲

Father's Land

Father's Land

  • provided courtesy of iTunes

アウトプット

新譜アルバム『COMFORT 2』(コンフォート2)

1. 空駆ける月のソナティナ
   Sonatina della luna che corre nel cielo
2. 夏木立
   Natsukodachi
3. 3つの小さな即興曲 -動-
   3 Impromptus "Dō"
4. 日常Ⅱ
   Nichijō 2
5. 即興メヌエット
   Impromptu-Menuet
6. 3つの小さな即興曲 -止-
   3 Impromptus "Shi"
7. 荒野の平穏
   Calm in the Wilderness
8. 3つの小さな即興曲 -静-
   3 Impromptus "Sei"
9. 線香花火
   Sparkler
10. オーヴァル34
   Oval 34

2023年4月30日発売の新譜アルバム。ピアノ、ギター、ヴァイオリンの3つの楽器のみ登場する完全なアコースティック曲集(実は初めてのことであった)。私は演奏には加わらずプロデュースに回り、4名の演奏者と1名のレコーディング・エンジニアに音作りをお願いした。規模の小さな楽曲の集合体であり、休日にソファに座って気軽に聞けるようなアルバムを目指したが、各曲への取り組みは当然気軽とは行かず、少々根詰めて作りすぎてしまったのは作品の空気感にそぐわなかったかもしれないが、領域の中でできることを尽くした。結果的にはソファに座らずとも、移動中に聞ける程度の空気感が含まれたかもしれない。

  • 空駆ける月のソナティナ

2021年秋のシングル。近作ではかなりお気に入りの部類に入る。親しみやすい楽曲でありながらソナタ形式の枠を逸脱しない、大人の音楽を目指した。

  • 夏木立

ヴァイオリンとピアノの二重奏。曲想の割に少し難しい譜面になってしまったのが反省点だが、シンプルな曲の多いアルバムのなかで比較的規模の大きな楽曲であり、メイン・チューンの顔立ち。拍子上は6/8と5/8、調性上はDとBを行きつ戻りつ。清楚な容姿をしておきながら、中身はプログレッシヴの申し子である。

元々楽曲として仕上げるつもりはなく記録しておいた欠片を集め、小規模の即興曲として3曲にまとめたもの。まとめた、と書いておきながらアルバム内で収録位置を散乱させているのは、演奏順、視聴順ともにランダム性が許容されていることの現れである。

「動」「止」「静」の漢字読みは定めていなかったが、レコーディング・エンジニアからShi-Sei-Doと呼ばれたのがそのまま正式名称として定着した。原初の仮称は「背徳のインテルメッツォ」。

  • 日常 II
  • 荒野の平穏

daybreakやIn Realityでご登場いただいた佐久間元樹氏によるギター楽曲。デモ・スケッチを彼に託したが、平易な「日常II」よりも遥かに早く「荒野の平穏」が納品されたことは実に印象的であった。彼の音楽性によりマッチしたのが其方だったということだろうが、少し苦心いただきながら生まれた「日常II」も、作曲者の望み通りの音世界に仕上げていただいた。

曲集における最古曲で、2015年のシングルが初出、アルバム未収録となっていた楽曲。即興曲として書いたという点では、前段の3曲と作曲時の心境が似通っていることもあり、アルバムに収めるタイミングとしては最良と見込んでの掘り起こしである。

  • 線香花火

これもピアノとヴァイオリンによる二重奏曲だが、クラシカルなアンサンブルというよりもっと幻想的な音作りをしている。終曲のオーヴァル34と並び、比較的客観性の高いアルバムのなかでは少し感情の入った楽曲となっている。元々は映像音楽として書かれたもののリプロダクション。

  • オーヴァル34

タイトルから自明の通り「Oval 35」と明確な関連性がある。原初として書かれたのは「35」であり、序奏を唐突に打ち切ってテンポを上げ次のフレーズに移行するところを「34」では打ち切らずにそのままのテンポで曲を進行していく。なので、全く同じ序奏を共有しながら別の結論へ向かうという、不思議な関係の2曲となった。いずれもベースには決して明るくない感情があり、それを打破するためのエネルギーをより前向きに持っている方が「35」と言えるかもしれない。これらも、元来は映像音楽として書かれた。

 

COMFORT 2

COMFORT 2

オンラインライブ「Move Toward」

アルバム発表後、5月に行ったオンラインライブ。旧作を中心とした選曲だが、新譜曲「線香花火」も演奏。昨年度行った2回のオンラインライブの延長線上で演ってみたかった楽曲を採り上げた。

  • Windy Night City Light
  • Move
  • 192
  • 闇に翠の灯る洞窟
  • The Ice Palace
  • 線香花火
  • Aim Toward

その後、転居を挟んで環境を再構築しながら行った簡易的なピアノ配信によるオリジナル枠は以下。ほぼ月イチ、概ね等間隔で開催した。

まとめ

アルバムを一つ完成させると音楽的燃え尽き症候群に陥るのはいつものことなのだが、それを数ヶ月で克服して次の作曲あるいはゲーム音楽等の編曲、即興アレンジ演奏、もしくはライブ・コンサート等に向かうつもりだったのが、何故か下半期は何もすることができなくなってしまった。転居等の個人的事情を抱えていたとはいえ、それをしながらも創作をできていた過去と比べると、明確な差異があったように思う。

音楽創作に行き詰まっていることは明白であった。立ち止まり思い悩むことも大事なのだが、割と完璧主義な自分が行き詰まりとかを感じてしまうと永遠に何もできなくなってしまうからこそ、オリジナルはもちろんニコ動においてさえ、完成度を差し置いてでも定期的に発信することに腐心してきた。それなのに、である。一つ前の総括に書いてあるリアルライブは実現できず、1回のオンラインライブと、YouTubeniconicoにおける簡易配信を週一(秋以降は大学事務が繁忙のため隔週)行うにとどまった。

M3-2023秋欠席、カプースチンの練習

2008年秋から毎回出席していたM3即売会の参加。2023年秋、ついに一旦キャンセルを決断した。兼業音楽家の自分にとって数少ない発信の機会をさらに減らすことは極力避けたかったのだが、作曲家的反射神経任せでそれなりの作品を出すサイクルを一旦断ち切ってみたかったのである。そこでどんな焦燥や、心境の変化が自分に起こるのかを見てみたかった。

今思えば一般参加はしてもよかったのではないかと思うのだが、結果的にはそれすらもできなかった。何の焦燥も生まれなかった。こんなものかと思う一方で、それに前後する時期に突然、無心にピアノの練習を始めた。大学時代にピアノサークルの先輩に布教され、自らも心酔してきたジャズ・クラシック作曲家カプースチンの楽曲(Toccatina Op.36)である。時間をかけて難曲に取り組むことをしなくなった自分にとっては途中で折れる可能性が高いと思いながら始めたが、何とか(コンサートレベルとまでは行かなくとも)一曲通せる程度に持っていくことができた。人前で披露するわけでもない以上、言ってしまえば自己満足にとどまるのだが、不思議なことに、ピアノインスト・スタイルの楽曲を書く以前の感情、すなわち打ち込みによる楽曲をしたい気持ちが出てきたのである。12月、その感情に従い、隣県ワーケーションにおいて小さな曲を一つ作ったが、全くピアノインストではなく、RPGのダンジョンで流したくなるような取り留めのないBGM風の楽曲である。これが自分や自分の音楽を求めてくださる方にとって望ましい潮流かは分からないのだが、昨日、2024春M3の参加を決めた。この楽曲に連なる曲を一旦、シングルなりにまとめてみたい。裏ではまたピアノインストを書きたい気持ちもあり、またこの武器を構える時期が来るはずだが、目下2024はこの創作から活動を再開したいと思う。失敬ながら好きなようにやらせていただくが、楽しみにしていただけると幸いです。