liberty 2
    New Album "COMFORT 2" 2023/4/30 release


【CDレビュー】BUMP OF CHICKEN『COSMONAUT』

COSMONAUT

COSMONAUT

 

先に2014年のアルバム『RAY』を聞いていたので、前後しての購入。RAYをレビューしたとき電子音が多くなったことに触れましたが、この作品はまだそれほどではないですね。しかしながら宇宙的なシンセパッド等の音色的な増幅はやはり要所に見られますし、変化の過程にあったことが伺われます。

一曲目の「三ツ星カルテット」からして変拍子の技巧的なサウンドで攻めて入ってきます。アルバム全体を通して、こういったテクニカルな音使いや、早口の歌い回し等が多い印象、RAYのポップ・ロックアルバムとしての音楽的なバランスの良さが際立っていたので、初めて聴いたときにはその濃密な音楽性に面食らい、ちょっと距離を置いてしまったのですが…何度か聴いていくうちにじっくりとはまっていきました。攻撃的な曲も散りばめられていつつ、ポピュラリティのある名曲も要所に挟まれていて、RAYとは違った意味でバランスの取れた佳作と思います。

R.I.P.」は最初はピンと来なかったのですが、アルバムを通して何度か聴いた後、じわじわと好きになりました。全体的なボーカルワークからしてちょっと暗い曲だな、と思ってたのですが、その淡々と歌われていく旋律に織り込まれた情景が見えるに従って、少しずつ少しずつ世界観に浸っていったというか。まんまとやられた感じですね。(でも体温計でズルして早退するのは良くないと思う)

  • 自転車置き場 会いに通った 尻尾の生えた内緒の友達
  • 母の日の朝 父さんとシャベルで 尻尾の付いた友達の墓

R.I.P.

「ウェザーリポート」「分別奮闘記」「モーターサイクル」「透明飛行船」と続くミディアム〜アッパーな楽曲群は、アルバムを聴いたとき真っ先に嗜好に訴えかけてきました。最初にはまったBUMPの楽曲がアップテンポの疾走感あるナンバーだったことからか、やはりこういうところから好みになっていくようです。

  • 君の夢がゴミと化して はや幾星霜

分別奮闘記

ミュージカルサークルの先輩がこの曲を好きと言っていたのですが、どれどれと聞いてみて第一声からこの歌詞なもので、なるほど、となりました。なんともすごい一行です。それを受けての最後に「持って行かれてないぜ」のリフレイン、お見事。

  • 誰が弁償してくれる 大小損害忍耐限界 それで何を弁償して貰う そこは曖昧なままにしたい
  • わざわざ終わらせなくていい どうせ自動で最期はくるでしょう

モーターサイクル

この曲は、「あぁ君には言ってない…」の部分の加工した音声が好き。君には言ってない感がよく出てる(笑)。

「透明飛行船」で特筆すべきは、サビの調性!最初のサビ「精一杯精一杯 笑ったでしょう」ではG#m、ラスサビの「ひとりこっそり 泣いたでしょう」ではB。同じメロディなのにマイナーからメジャーになっているんですね。それなのに歌詞では泣いている。感情を隠さず泣くことで心が晴れていく様を音楽側から表現しているのだと思っているのですが、どうでしょうか。

  • 優しさの真似事は優しさ 出会えたら迷わないように

透明飛行船

「魔法の料理〜君から君へ〜」は、いつだかのHMVでの試聴でカップリングの「キャラバン」を好きになった自分としてはようやくA面をしっかり聴いたというところでしょうか。なるほどこれはタイトルナンバー、と納得の壮大で感動的な大曲。涙腺にアプローチする楽曲はどうにも身構えてしまうのですが(笑)、素直に身を任せてもいいかな、と思えるのが藤原氏の力か、はたまた「でも覚悟しておくといい」という歌詞のちょっとした人間臭さ(悪く言えばイジワルさ)か。こういった子供に向けてのメッセージソングみたいなのも、今後増えていくのかな。

「HAPPY」の熱を帯びた明るい曲調は、ちょっと「fire sign」を思い出しました。

  • 優しい言葉の雨は乾く 他人事のような虹が架かる なんか食おうぜ そんで行こうぜ

HAPPY

BUMPの歌詞は、地味にしばしば「お腹が空く」「食べる」系の歌詞が出てくる気がしますね。モーターサイクルの「四の五の言わず飯食えよ」もそうですし。嫌いじゃないです。落ち込んだときの空腹は良くないからとりあえず食べろ、的なことは心理学を専攻する友人にも昔言われたことがあるので、割と専門的にも正しい処方箋なのかもしれません。

セントエルモの火」は、仄暗いイントロと、徐々に疾走感を高めていく展開にしばしはまりました。何度となく繰り返される「どれくらい…」の歌い回しが気持ちいいです。

「angel fall」はゴスペルな曲調が珍しい。「宇宙飛行士の手紙」は浮遊感ある曲調が壮大。「踵が2つ」「踵が4つ」という表現や、「ジャンル分け出来ないドキドキ」という歌詞には思わずハッとします。

「イノセント」は最初はピンと来なかったのですが、これもジワジワとはまっていきました。まず、イントロのベースとギターのサウンドが渋くて大変格好良い。そして、早口でつぶやくように語られる歌詞の数々。

  • 恵まれなかったから 才能とチャンス それさえあったら
  • 語彙が豊富です 造詣が深いです 機械の力です 水掛け論が得意です あまりよくないあたま
  • 芸術に関しては 見る目がある気がする あれは駄目であれは良い 趣味のお話
  • 恵まれていたとしても 才能とチャンス 活かせただろうか
  • 自分を嫌えば許される それは間違い 自意識が過剰 そもそも嫌えていない

イノセント

あまり列挙してもどうかという感じなのですが。鋭い表現がてんこ盛りです。早口で歌う表現には照れも含まれているのかな、なんて。「誰の声か、どうでもいい」「君がどんな人でもいい」の節回しも聴いていて気持ちがよいです。

…特に気に入った曲だけ書くつもりだったのですが、また長大になってしまいました。歌詞の評判とロックサウンドの受容面から聴き始めたBUMPも、なんだかんだで『FLAME VEIN』以外のアルバムは全部所持しているほどになりました。棘がなくなった、丸くなったというような声も聞くBUMPですが、個人的には今の方が好きかもしれません。単純に歌や演奏が上手くなってる方が聴きやすいのもありますし、アレンジのヴァリエーションも今の方が多様ですし。もっとも昔は『ユグドラシル』が大好きだったわけで、好みが老け込んだだけかもしれませんが(笑)。ポツポツと見かける新曲も良さそうなので、なんだかんだで今後も聴き続けるんだろうなと思います。