daybreak
New Album "daybreak" 2017/4/30 release


【CDレビュー】IMERUAT『Far Saa Far』

3年ぶりとなるIMERUATの新譜。いやはや待たされました(笑)。アルバムとしては三作目、前作は6曲入りのミニアルバムでしたが今回は倍の12曲収録。過去作からのリアレンジや、循環形式的?リプライズ的?な、アルバム内での旋律再利用曲のようなものもいくつかあり、また全体の尺も30分台と比較的コンパクトですが、体裁としてはフルアルバムと言って良いでしょう。

この記事を書いている段階では未発表のPVなどもあり、完全に受容した上でのレビューをすべく待つべきか悩みましたが、それだとファーストインプレッション等々洗い流されていきそうなので、一ヶ月聞いたこのタイミングで書いておくことにしました。

Far Saa Far(ファーサファー)

Far Saa Far(ファーサファー)

 

比較的プリミティブなアイヌの血を強く持った1stに比べて、より攻めた音を打ち出してきたのが2ndでした。その分3rdは原点回帰的な方向に向かうかな?と(個人的な希望もあったかもしれません)当初思っていましたが、2nd後に打たれたライブでの新曲を見るに益々幅を広げる方向にシフトしている印象で、IMERUATはどこに向かっていくんだろうという一種の心配もありましたが、こうして3rdを通して聴いてみると……その心配の延長上ともいえる曲が僅かに含まれていることは否定できない一方で、そこまで尖りすぎていない、枠を外していない、二作を経た上での到達点としての曲集に仕上げてきたな、という印象を受けました。

一曲ずつ取り上げていきます。

1. Far Saa Far

嬉しい驚きだったのは、静かに始まること。2ndのTeNiOEが割合はじけて始まるので、3rdもその系統かなと勝手に予想していたこともあり、この流れるような柔らかな5拍子のシンセ・リフで始まるサウンドにはワクワクしました。しかし「Far さぁ Far」で始まるメロディが始まってからは、比較的あたりさわりのない曲調に落ち着いてしまい、正直初めて聞いたときにはほとんど印象に残らなかった。ただ、幾分時間をおいてから少しずつ「Far さぁFar」の旋律が頭を回り出すようになったので、ああこれは浜渦さんの時間差攻撃だったのかもしれないな、なんて思った記憶があります。今ではお気に入りの曲になり、ピアノでも少しずつ弾けるようになってきた曲です。

2. ぽろろろろろろ

3. のみたいな

この2曲については、ライブのときの感想のまま。

私、「ファンシーなナンバーが続き場の雰囲気が良く分からなくなってきた」と書いてるのですが、正直ちょっと浮いている気がするのですよね。「ぽろろろ…」の方は、曲・歌自体はとても美しく、弦楽アンサンブルのアレンジも見事。子供向けの教育番組で流れていそうな曲で、それこそそういう場で使われると良質な音楽教育的楽曲として映えると思うのですが、「美味しいご飯を食べようね」とライブで歌われても、正直困ってしまったのが本音です。「のみたいな」の方は、変拍子でちょっとメランコリーな曲調が最高にクールなのですが、その曲に乗せて「のみたいなショコラショ」とライブで歌われても、正直…。あと歌も、長回しや猛烈な早口を含む部分が凄く技巧的で、いかにMinaさんといえどライブでは大変そうで観ていてはらはらしてしまう。その割に歌詞はコミカルというミスマッチもあり、落ち着いて聞けないのかもしれません。

4. Flakes

ライブで演奏されたときは音響の都合もあり変拍子部分を中心にカオスなサウンドで「なんだこりゃー」となってしまったのですが、アルバムで洗練されたサウンドで聴くと大変格好良い。間奏で多層的に重なるシンセの応酬が好きです。

5. kilto kilto

歌、歌詞、サウンド含め全般、今作では最もアイヌを感じる曲でしょうか。1stアルバムを感じる曲、と言っても良いかもしれません。「ホホー、ソロジェソロジェ」「ホホー、アラモアラモ」などの歌詞は、その響きの素朴さに何だか無性に良いなあと思わされてしまいました。これもMinaさんマジックというか、私がIMERUATに惹かれるようになった根源のようなものを含んでいる部分と思います。

唯一残念なのは過去作「Atmosphäre Op.1 No.1」の使い回しということでしょうか。いや、「こういうのもいいね!」と素直に喜べばいいのですが、私、原曲のヴァイオリンエチュードとしてのサウンドも好きだったので、一つの楽曲の思い入れが二分されるような気持ちになってしまうのです。まあこれは私くらいのネガティブシンキングマンしか思い得ない感想かもしれません。

6. 里山デパートメントストア

おや?これは面白いぞ、と思わされた楽曲という意味では今作で一番かもしれません。楽器の多様性、世界観の新鮮さ、そしてMinaさんのアナウンス(笑)。

Minaさんの歌はクールな部分が好きだからそういうのをもっとくださいと言い続けてますが、キュート系というか、ほんわか系もこういうのは受け入れられるのですよね。やはり曲とのマッチングでしょうか。あと佐々木貴之さんのギターも、田部井さんとはまた違った味があって良いですね。

7. Quarter Tones

やはりIMERUATにはこういうインスト楽曲があってほしいですね。これもとてもサウンドが面白く、またゆるゆると流れる音たちの隙間隙間が心地良く、アルバムの真ん中で良いアクセント?箸休め?になっています。微分音については、正直良く分からない(笑)。Minaさんの声が左右をくるくるする様は、ちょっとビョークの「Headphones」を想起させられました。

8. 暗殺したい!

TeNiOEのときにも、メジャーではないからこその表現みたいな話をした気がしますが、この曲の場合は曲名からして、ですね。大丈夫なんでしょうか。しかしながら曲は複雑なリズムでハイテンポで爽快に進み大変快く、格好良く楽しい。そしてキャッチー!「I want to assassinate」が脳内をリフレインして気がついたら口ずさんでしまうというのは危険極まりないですが、それくらい耳馴染みの良いメロディーです。

work...の後の世界観は、うまく言えないのですがかなりの「メッセージ」を持っていると思っています。映像が公開されて思うところがあったら追記しようかと。

9. ルフルール

「浜渦さんが直球を投げた」のフレーズで紹介されたルフルール、ありきたりに言うのは憚られますが、一言で言えば「名曲」。弦の美しさもさることながら、キラキラとした音と揺らめくようなボーカルの感じさせる儚さのようなものが、曲全体の説得力を高めている。「もし君が孤独(ひとり)だったら」の部分が、個人的に一番脳内リフレインします。

10. LIFE CM

これもインスト楽曲。とても浜渦節な小曲で、1stのYaysamaのような立ち位置でしょうか。バスクラリネットがちょっと珍しいというか、印象的でした。

11. La danse Battaki

1stに入っているBattakiのセルフカバーで、フランス語の歌詞に変わっています。

うーーん、正直この曲集に入る必然性をあまり感じません。アレンジも当たり障りないものでライブで定番となっているオリジナルを超えるとは思えず、Giantのようなインスト-インストの変換や、kilto kiltoのようなコンセプトならまだ意味を感じるのですが。

12. 草原駆けて

アルバムの最後を飾るインスト楽曲で、ルフルールのインスト・アレンジ。決して悪くないというかサウンド自体はむしろ好きなのですが、そもそも珍しく「直球を投げた」ことに価値のあるルフルールを、同一盤内で早くもリプライズしては効果が薄れてしまうのでは?またアルバム終盤のインスト楽曲という意味では、LIFE CMとの棲み分けも少々不明瞭に感じます。ただ、単一のライナーノートが存在することからもルフルールへの思い入れは理解できますし、リプライズの発想自体は私も好きなので、これはこれで良いのかなと。あと、1stの「Springs」や2ndの「イメルア体操第四」に比べると、爽やかなラストで終わるのは結構好みです。…って、これでIMERUATラストとかないですよね?ちゃんと続きますよね?(笑)

浜渦さん自身が妥協ゼロと語られていた今作、クオリティの高さはもちろん素晴らしいのですが、IMERUATの強み、個性を考えた上で、期待を上回ったものが出てきたかというと、瞬時に首を縦に振れないのが正直なところ。自由にいろいろやっていただきたい気持ちもあるけど、率直にいうと少々散漫になってきた感じを受けます。素晴らしい曲も多いだけに惜しい!うまく言えないのですが、もっとクールでいてほしいし、もっとストイックであってほしい。幅を広げながらレベルアップしているにも関わらず、1stのインパクトを超えない範囲にとどまっている気がしてしまうのです。

もっともIMERUATがこのクオリティでアイデンティティと冒険性まで完全に満たしたものを出してしまったら、仮にも音楽を生業にしようとしている身にとっては打ちのめされてばっかりでとても継続して聞けなくなってしまうので、これくらいで丁度良いのかもしれません(もちろん一定量はしっかり打ちのめされていますし…笑)。引き離されすぎず、程よく手の届くところに居ていただけるおかげで、まだまだIMERUATを追いかけられそうな気がします。1stの完成度は確かに高かったけど、それを超えるもの(アイデンティティを失わない範囲でポップさも併せ持ったもの)もやはり出していただきたい!そういう意味では渾身の3rdもさることながら、すでに私の注目は次の作品に向かっている気がします。おそらく浜渦さん自身がIMERUATでやりたいことと私が勝手に望んでいることがそもそもミスマッチかとは思うのですが、追いたいと思えるアーティストが減ってきている昨今においては、まだまだ無い物ねだりをさせていただくことになりそうです。