daybreak
New Album "daybreak" 2017/4/30 release


【CDレビュー】光田康典『ハルカナルトキノカナタヘ』

光田さんが最初にクロノクロスのアレンジアルバムを出すと発表されてから何年経っただろう?いずれにせよ発表がなされたのはスレイベルズレーベルが継続的に作品を出していた時期で、光田さんの次作を今や遅しと待ち焦がれていたような頃の話だったろう。やがて光田さんはソロワークをあまり出されなくなり、プロデュース寄りのお仕事が増えていった。日々のご様子を垣間見ても常に多忙を極めていて、アレンジアルバム発売が実現することは恐らくないだろうと、もはや諦めの境地に達していた。そんな折、迎えた2015年は光田さんの活動20周年ということで、7月に記念ライブが打たれるなど光田音楽はにわかに盛り上がりを見せ(観覧記は過去記事を参照)、その流れに乗って発表されたのが、このクロノ・トリガークロノ・クロスのアレンジアルバム『ハルカナルトキノカナタヘ』である。

このレビューは史上最難かもしれない。私がライブを観たときに天にも昇る心地に持って行かれたことは過去記事の通りだけど、諦めの境地から昇天という極端な浮き沈みの後に受容したのだから。ニュートラルなレビューを編み上げることは不可能にちかい…とはいえ、先のライブも待ち焦がれたものに邂逅した喜びをありのままに綴ったことに意味があったと思うし、今回も素直に、今感じたことを書いてみようと思う。偏った意見になっていると思うけど、何卒ご容赦を。

まず、このアルバムは光田さん作曲の10曲で構成されていながら、光田さんの作品とはなかなか言い切りにくい面がある。ZABADAK、サラ・オレイン、ローラ・鴫原といったアーティストがフィーチャーされ、編曲者も谷岡久美さんや亀岡夏海さんといった光田さん以外の方が多数参加。というより光田さんが編曲しているものの方が少なく、純粋な光田さんアレンジは「マブーレ」の一曲のみである。

結果としてどういう音楽になったか?往年の名曲たちは荒削りな成分がそぎ落とされ、一曲一曲がシングルカットできそうな、洗練された音楽に変身した。これは、冷静な目で見ればアルバム全体の完成度を高めているが、個性という面ではどうだろう。クセという意味ではどうか。光田さんはバランスの取れた音楽も個性的な音楽も書ける人だけど、クロノという音楽のアイデンティティについて言えば、間違いなく後者だろう。今作ではそれを伸長する方向よりは、一般受けが良いものでも作るように、無難な方向に落とし込まれた印象がある。無難といっても大変な労力がかかっていることは言うまでもないのだが、ここまで年月を経たからには、「大変な労力をかけて個性を伸長させてほしかった」のが本音だ。クセを取ってしまっては、それはクロノやゲーム音楽というより、巷にあふれる他メディアの付随音楽との違いがなくなってしまう。

一曲一曲に触れていこう。

1. 時の傷痕 〜ハジマリノ 鼓動〜

吉良さんアレンジ・ボーカル、小峰さん詞・ボーカルの、完全なるZABADAK版「時の傷痕」。ZABADAKも好きな身としては、このサウンドはとても楽しめる。お二人のボーカル、重厚なロックサウンド、間奏のギターソロ…素晴らしい。だけど、「時の傷痕」のアイデンティティは、何といっても演奏者の熱を帯びたような疾走感あふれるビートなのである。このゆったりとしたドラムスのビートと分断されたストリングス・リフでは、そのアイデンティティは半減である。私はZABADAK好きだからまだ楽しめるが、時の傷痕のオープニングに恋した人にとって、このアレンジはどう受け止められるのだろう。ライブでのアレンジはそのアイデンティティが確かに生きていたはずで、それを収録することはできなかったのだろうか。

2. RADICAL DREAMERS

光田さんらしいエスニック・エッセンス、かと思えばあまり光田サウンドでは聞かないシンセな音色のリズム・トラック、間奏の美しいコーラスなど、サウンド的にはなかなか楽しめるのだが、構成的にオープニング曲の次にもうエンディング曲が来てしまうので、ゲームを想起される間もなく、一歩引いたクロノクロスの総まとめみたいな印象になってしまい、世界に入り込めないままに終わってしまう感がある。

3. 風の憧憬

風の憧憬の原曲のピチカートは、音楽的にはあまりに唐突かつ歯切れがよすぎて、冷静に考えればそんなに美しい音ではないけど、ゲーム中に中世の景色を見ながらあの曲を耳にしたとき、プレイヤーはその音と音の隙間の中で自分の感情がさまざまに渦巻くのを感じたのではないだろうか。ピアノの音が離散的とはいえ、こんなに綺麗にレガートしてしまっては、感動するだけの隙間がない。あらかじめ感情の奔流を感じた後でレガートの音楽が鳴る、その応酬に意味があると思う。

二回目のコーラスでストリングスが劇的に盛り上がるところは一瞬ハッとしたけど、二回目以降は「ああ感動させに来てるなあ」と、こちらも引いた感情になってしまった(これは自分がひねくれているだけかも)。

4. サラのテーマ

これは原曲のアイデンティティに近いアレンジ!パーカッションのタイミングなど、原曲へのリファレンスも多く感じられて心地よい。ボーカルが入ったことにより、むしろ原曲よりもクセが増していて一瞬たじろいだけど、聴くほどに新たなサラのテーマとして耳に馴染んでいく。個性を伸長させて耳に馴染ませるというのは並大抵のことではないから、やはりこれも光田さんの才能なのだろう。ちなみにこのトラックで初めて編曲に光田さんがクレジットされる(ボーカルのローラ・鴫原さんとの共同編曲のようだ)。

5. 凍てついた炎

シンプルなストリングス・アレンジだけど、個人的に一、二を争う曲集のフェヴァリット。そもそも原曲が、クロノクロスの音数の少ないサウンドトラックのなかではシンフォニック色の強い性質だから、ストリングスが合うのは必定なのかも。

6. マブーレ

もっとも素直に光田色が反映され、かつ、もっとも20周年ライブの空気を感じる曲。壷井さんの暴れヴァイオリンが聞き所!何故あえてマブーレなのかは分からないけど(もっとお祭り雰囲気が似合う曲がありそう)、サウンド的には大満足なので問題無し。一番聞きたいのはお祭り騒ぎな後半であり、それに比してアコーディオンのイントロが長すぎる(もしくはお祭り騒ぎが短すぎる)と思わなくもないけど、それはいつかライブで演奏されるときのお楽しみということで。

7. 次元の狭間

これもシンプルなストリングス・アレンジ。こちらは原曲がギターソロなのだから、こんなに重厚にする必要はないのでは?あのまばらな感じがクロスの世界観であって、これではドラクエの村か聖堂である。そもそも光田さんは随分この曲がお好きなようで、事あるごとに取り上げておられるけど、シーン的にそんなに目立つ曲ではないので、いつもちょっと温度差を感じる。10曲のなかに選ぶほどだったのかな。

8. 時の回廊

無難なアレンジと名演奏にすぎないから、時の回廊らしくはない。原因の大部は、やはりエスニック成分を大幅に削ってしまったことじゃないかな。誰でも最初のシタールに衝撃を受けたわけだし、小さなパーカッションをドラムスに差し替えてしまうだけで持ち味は失われる。サラのテーマのようなアプローチだったら良かった。

9. On The Other Side / エピローグ〜親しき仲間へ

特筆すべき点なし。

10. ハルカナルトキノカナタヘ

イントロはゆったりだけど、途中からしっかりとビートを刻むアレンジになるので一安心。感傷的な原曲だけど、しっかりビートを刻む中で展開する曲なので。ワンコーラスを終えたあとであっさりとコーダに向かうのは拍子抜けしたけど、これはこれですっきり聴けて良いかも。コーダの部分のストリングスの刻みと、ギター、ピアノ、パーカッションの絡みは見事で、いろいろな音色で魅力が光る光田さんの楽曲に良く合っていると思う。ただ、ラストはちょっとあっさり終わりすぎなので、原曲の余韻を考えたらもう少し引っ張ってよかったかも。そして…決定的なのは、このトラック、どうにも音割れが多いのである!気付くまでは普通に聴けていたので、ちょっと残念。

 

およそライブ観覧記で褒めちぎった人とは思えない、批判的なレビューになってしまった。実はライブでもアレンジが不満だった曲がないわけではなかったから、アルバムという形態によって、冷静に判断できた部分もあるかもしれない。もしくは、ライブとの差を感じるとしたら、ストリングスの多さにあるのかも。ストリングスは豪華さは出るけど、陳腐さも出てしまう。それが必要な王道サウンドであることも当然あるだろうけど、クロノ・サウンドにとっては、個性を削ぐ要因になったとも考えられる。もちろん「凍てついた炎」や「ハルカナルトキノカナタヘ」のような好例もあるので、どうせ使うならこういう良さをもっと見せてほしかったな。

あとは、単純にライブで光田さんの進化と自分を比してあまりに雲泥の差を感じたので、当然アルバムでも同じくらい引き離されるだろう、という期待感があったのかも。プロダクション的には今の自分には到底実現できない出来だし、しっかり引き離していただいているのだけど、楽曲のアイデンティティの部分に関していえば、ライブでしっかり実現できていた部分がアルバムに出てきていないな、と感じてしまったのが本音です。こういうアレンジアルバムを出される機会はいよいよもう無いと思うので、あとはオリジナル!オーケストラや電子音の世界観は『宇宙生中継 彗星爆発 太陽系の謎』で聞けたので、次はMillennial Fairの魅力を光田さんオリジナルの世界観で体現したような、ポストkiRiteのような新作アルバムを!是非!期待したいところです。